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2017年3月 4日 (土)

トランプ旋風の歴史的意味 (2)安易なグローバリズム礼賛への反逆-アダム・スミスもケインズも安易なグロ―バリズム礼讃には反対した

産業革命以来、経済の発展は市場の拡大とともにあった。グローバリズムは経済を成長させ世界を繁栄に導く原動力であった。グローバリズムに光と影があるとしても、時代の趨勢は間違いなく経済のグローバル化であった。新興国も、経済の近代化を通して富裕への道を歩み始めることができるようになった。経済における「近代化(工業化)」「貿易自由化」「生産の海外移転」「グローバル最適地生産」という考えは、歴史の必然の流れであり、それに合わせることこそが時代の選択であると考えられている。

グローバル化がもたらす闇がいかに理不尽だとしてもそれに抗することは難しい。しかし、それも我慢の限界に達したら人間の怒りが暴発することには変わりはない。トランプ旋風とは、資本主義と経済のグローバリズムがもたらした不条理に対する大衆の怒りの爆発であるが、一時的な不満の爆発にすぎないものではない。批判されているような保護主義でもない。トランプ旋風の背後には新しい時代の兆も垣間見える。

 

(1)象のカーブ

 

 グローバル化に伴う個人の富の獲得を分析した研究に「象のカーブ」と呼ばれている分析データがある。

 エコノミストのブランコ・ミラノビッチが示した「グローバル化の象のカーブ」は米国やイギリス社会にみられる中間層の不満や滞留をさらに裏打ちする。横軸を世界の人々の所得階層、縦軸を1998年から2008年の所得の伸び率とする折れ線グラフを使い、所得階層によってこの間の所得がどう伸びたかを比較すると、新興国の人々(象の背中)と上位1%の最も豊かな富裕層(象の鼻先)が所得を大幅に伸ばしている。それに比べ、先進国の中・低所得層の伸びは僅かにとどまっているとされる。実際、米国の実質賃金や家計所得の中央値は長期にわたり停滞が続いている。

先進国の中間層は思い描いていたライフスタイルを実現することがますます困難となり、米国社会では広く共有されていた成功志向や労働倫理が大きく揺らいでいる。かつて自律的な市民社会の担い手だった中間層が、いまやアイデンティティクライシス(自己喪失)に陥る恐怖に苛まれているのである。(キヤノングローバル戦略研究所 主任研究員 神保 謙)

Photo

Source: Branko Milanovic, Global Inequality: New Approach for the Age of Globalization (Cambridge: The Belknap Press of Harvard University Press, 2016)

http://www.canon-igs.org/column/security/20161130_4040.html

【最も所得変動が大きくプラスになったのは、新興国で台頭する中間層(象の背中A)の所得と、先進国の富裕者層(象の鼻先C)だった。それに比べ、先進国の中低所得層(象の鼻の付け根B)の伸びはわずかにとどまり、実際、米国の実質賃金や家計所得の中央値は長期にわたり停滞が続いている。】

 米国で起きたトランプ旋風とは、まさに先進国中間層の貧困化がもたらした大衆の怒りの爆発でことを「象のカーブ」は端的に示している。

 

(2) アダム・スミスも経済のグローバル化には慎重だった 

 

 自由貿易協定・経済連携協定を推進する人々は、アダム・スミスの次の言葉を錦の御旗にして経済のグローバル化に邁進しきた。

 「労働の生産物のどれだけの部分が国内消費を超過して余ろうとも、それにたいして、外国貿易はいっそう広い市場を開くことによって、その国の労働を奨励してその生産力を改善し、年々の生産物を最大限に増加させ、かくしてその社会の真の所得と富とを増加させるのである。こうした重大な任務を、外国貿易は、それが行われるすべての国にたいして絶えず遂行している。これらの国々はすべて、外国貿易から大きな利益を得る。(アダム・スミス「国富論」第4篇第1章)」

 こうアダム・スミスは述べたのだが、一方でグローバル化は自国の産業の繁栄のために他国の市場を獲得しようとしているため、新たな市場となる国にとっては深刻な反対が起こる。秩序が乱される。利害対立に公平な考慮を払うならば、この種の変更はけっして急激に行うべきではなく、徐々に、漸進的に、しかもよほど前から予告をした後に導入されるべきなのであると述べていることを忘れてはいけない。自由貿易協定は、決して急いではいけないというのである。

 さらに、「自由貿易が将来大ブリテンに完全に回復されることを期待するのは、この国にオシアナ(ジェームズ・ハリントンの著作に出てくる理想郷)あるいはユートピアが将来建設されるのを期待するような夢想に近い。社会一般の偏見だけでなく、それよりもいっそう克服しがたい多数の個人の私的利害が、とうてい抵抗できないくらいに強力に反対するからである)とも述べている。

 

 しかしこのような指摘は無視され、経済のグローバリズムは、経済的利益を手っ取り早く手に入れることができるものとして、抵抗する私的利害対立を抑え込んで強引に進められてきた。西欧列強によって進められてきた植民地支配は、新市場の果実の奪い合いだった。そしてその結果は、世界大戦という戦争によって崩壊を起こすだけだった。「グローバルリズムは、まさにあらゆる事項を合理的な「金融的計算」に任せてしまう。合理的個人主義やグローバルな国際主義は、人類共通の普遍的価値や理念という一見耳ざわりのよい響きを響かせながら、実際にはより重要な価値、つまり日々の生活を構成している国民の中にある価値を破壊しかねないのだ。(佐伯啓思)」

 この言葉の中に本質がある。そこに生活する人々の生活は隅に追いやられ、権益の虜になった人々の主戦場となるのだ。

 

 トランプ大統領の環太平洋パートナーシップ協定(TPP)からの離脱、北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉の表明の背後にある思想は、安易なグローバル化礼讃は正しくないという認識である。グローバル化は米国から製造業を追い出してしまった。米国中間層は職を奪われ、停滞し貧困に陥らざるを得なかった。トランプ大統領の中心的な支持者は地方の中小都市や農村地帯に住む大学教育を受けていない白人の中間層・貧困層であることは、このことを如実に示している。

 

(3)ケインズも、経済のグローバル化を安易に礼讃してはいない

 

 ケインズ理論は、経済のグローバル化による国内経済の投資不足と低迷に対する打開策として生まれたことを思い起こしていただきたい。

 ケインズは、自由な金融のグローバリズムは個々の投資家にとっては利益機会を提供するが、その結果として、イギリスの国内に投資されるはずの資本が海外に流出する。しかもこのことこそが、イギリス経済の低迷、容易に回復しない高失業という事態と決して無関係ではないという認識に至った。1923年から1924年にかけて、ケインズは自由至上主義の批判者に変わったのだった。

 

 拙ブログ「ケインズのグローバル経済批判」(2016/3/16)の中から、その論点を見ることにする。http://kivitasu.cocolog-nifty.com/blog/2016/03/post-d9ef.html

 ケインズの経済問題の中心的主題は、「欠乏と貧困問題、および階級対立と国家間の経済闘争の問題」であった。個人主義的社会を放置するとそれはうまくいかない

 1923年から1924年にかけてケインズは自由な市場の擁護者から自由至上主義の批判者に変わった。その背景にはグローバル化する経済のもとでイギリス経済の不安定(物価の変動と高い失業率)という問題が存在したのである。

 自由な金融のグローバリズムは個々の投資家にとっては利益機会を提供することであろう。しかしその結果として、イギリスの国内に投資されるはずの資本が海外に流出する。しかもこのことこそが、イギリス経済の低迷、容易に回復しない高失業という事態と決して無関係ではない。

 『ネーション』誌524日に、国内の貯蓄が国内で運用の機会がないために海外に流出し、「我が国の社会全体としては最小の利益しか獲得できない使途に向けられる」と書く。確かに国内の投資意欲は減退している。しかし、そうであれば、海外に流出する資本を国内に誘導し、政府が主導して大規模な建設事業を行うべきだというのである。「国民の富を国内での資本開発に導くことによって、われわれは我が国経済の均衡を回復することができるであろう」というのだ。

 

 イギリス経済の低迷の理由は、国内の貯蓄に対して国内投資が過小になっている点にある。この状態で金融のグローバリズムを実行すれば、資金は海外に流出するだろう。そしてその状態が続けば、そのことがいっそうイギリス経済の回復を遅らせるだろう。そこで海外に流出する資本を政府が誘導し、公共投資などの形で国内に還流させるべきだ。これがケインズの考えであった。

 

 グローバル経済を優先的に考えると、国内経済は不安定化せざるを得ないというのが、ケインズの見立てでもあったのである。そこでケインズが処方として出したのが、金本位制を廃止して国内経済の安定のために中央銀行が貨幣を管理するという管理通貨制度だった。ここに、中央銀行という楯が国民経済の安定を保証するというシステムの誕生があった。ケインズ理論が発表された時、西欧の指導者はこれで社会主義革命の恐怖から解放されると安堵したことも付け加えておく。

 

 経済のグローバリズムを放置していたら、国内経済は不安定化し国民生活は改善されないのだ。私が過去のブログで度々TPP批判を繰り返したのも、海外経済に依存することは投資家、企業家にとっては利益機会をもたらすものの、一般の国民にはその利益はなかなか行きわたらず不利益をこうむりかねないという理由からであった。201211月からのアベノミクスによる輸出主導経済によってもその恩恵が国民に行きわたらなかったのは、ある意味当然なのである。ケインズがたどり着いた認識-「国民の富を国内の資本開発に導くことが国内経済を回復させることである」-こそ、最重要課題なのである。

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